
精索静脈瘤
精索静脈瘤とは

男性不妊に向き合う上で見過ごすことのできない原因のひとつが精索静脈瘤。
これは静脈の弁がうまく機能せずに精巣から心臓へ戻るべき血液が静脈内で逆流・停滞し、血管がこぶのように拡張してしまう状態を指します。
本来、精巣は体温より少し低い温度に保たれることで正常に機能しますが、この静脈瘤によって血液が滞留することで精巣が低酸素状態に。
加えて精巣の温度も上昇するため、精子をつくる繊細な環境が損なわれ、精子の「数の減少・運動率の低下・質の低下」を招いてしまいます。
罹患しても自覚症状に乏しい精索静脈瘤ですが、病院で発見できれば治療が可能。
手術で血流を正常化させることで精液の質を向上させることができるのです。
精索静脈瘤を自分で確認する用法

精索静脈瘤は自分でチェックすることも可能。
お風呂上がりに陰のうを触ってみて、左側の精巣の周囲に血管が浮き出ている場合や小さなグミのようなものがあればグレード3の可能性があります。
また、精巣サイズに左右さがある場合にも可能性があります。
このような場合、男性不妊症の専門医を受診することをおすすめします。
男性不妊との関係
男性不妊の原因の多くは、精子を正常に作ることができない造精機能障害ですが、そのうちの30~40%が精索静脈瘤によって引き起こされていると言われています。
精索静脈瘤による精巣への悪影響は精子DNA障害による不妊や流産の増加だけではありません。
陰嚢の強い疼痛や違和感、男性ホルモン早期低下による眠りの浅さ・だるさといった若い年齢での男性更年期障害の症状で来院する方も多くいらっしゃいます。
また、精索静脈瘤になると数年で精液所見(精子数の減少、運動率低下、奇形率上昇)が悪化。
2人目不妊の約8割の原因を占めていますので、早期発見・早期治療が大切です。
当院の精索静脈瘤の
手術について

精索静脈瘤を根本的に治すには、問題のある静脈を結紮(けっさつ:縛って切断すること)することで血液の逆流を防ぐ手術が不可欠。
精巣の機能を妨げている拡張した静脈を正確に見つけ出して適切に処置し、血液の流れを正常な経路へ導くことで、精子が作られる精巣内の環境改善を目指します。
しかし、精巣周辺の静脈があるのは、“精索”と呼ばれる皮膚直下の血管のかたまりです。
静脈の細さは髪の毛1本ほどで、動脈・リンパ管・精管とともに束になっているため非常に精密な作業が求められる手術です。
そこで当院ではマイクロスコープを駆使した「顕微鏡下精索静脈瘤結紮術」を採用。
皮膚を1.5㎝ほどしか切らず、精巣動脈やリンパ管など重要な組織を温存しながら原因となる静脈のみを精密に処理できるため、合併症のリスクを抑え、より高い治療効果が期待できます。
精索静脈瘤の手術の種類と効果
手術の種類
高位結紮術
開腹手術の一種で傷は15㎝ほど
腹腔鏡手術
1.5㎝程の小さな穴を4ヶ所開けて行う手術
顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術
傷は1.5㎝程と小さく最も合併症が少なく効果が高いとされる手術
手術の効果
- 70~80%の方に精液所見が改善(無精子症の10%に精子出現)
- 妊娠率上昇、流産率低下(顕微授精から人工授精・自然妊娠に改善)
- 精巣内の変性神経切断で70~80%が疼痛や違和感が改善
- 男性のホルモン(テストステロン)が70〜80%の方で上昇し・さまざまな不調がが改善します。
手術以外の治療法(抗酸化療法)
精索静脈瘤の手術以外の治療法として挙げられるのが抗酸化療法。
「還元型コエンザイムQ10」や「Lカルニチン」、「アスタキサンチン」、「亜鉛」といった抗酸化作用のあるサプリメントや薬剤を3~4ヶ月服用することで、約50%の患者様において精液の質が改善するとされています。
当院の精索静脈瘤の手術実績
当院では1年間で350例ほどの精索静脈瘤の手術を実施。
時間は約90分で、手術用顕微鏡を用いて精索内の動脈・静脈・リンパ管・神経を1本ずつ剥離して丁寧にチェックするなど、専門性を生かして精密で安全な手術を行うよう心がけています。
また、「顕微鏡下精索静脈瘤結紮術」は鼠径部を1.5㎝ほど切って行う皮下の手術であり、筋肉や臓器を傷つけることはありません。
そのため、一般的には局所麻酔が採用されることがあります。
当院では患者様の痛みや恐怖心に配慮して全身麻酔での対応も可能。
不妊治療として保険適用となりますので経済的にも安心です。
術後の注意点
手術の効果を最大限に引き出し、順調な回復を促すために、術後の過ごし方は非常に重要です。
ご自身の体調を第一に、焦らずゆっくりと日常生活に戻っていきましょう。
痛みのケア
術後、麻酔が切れると傷口や下腹部に痛みを感じることがあります。
処方された痛み止めを指示通りに服用してください。痛みは通常2~3日をピークに、1週間ほどで徐々に和らいでいきます。
シャワー・入浴
シャワーは手術の翌日(または翌々日)から可能。
創部のフィルムは2週間ほどで少しずつ剥がれます。
(1週間程度は入浴を控えましょう)
日常生活
手術当日から翌日はなるべく安静にお過ごしください。
仕事
デスクワークなど身体への負担が少ないお仕事は早ければ翌日から復帰可能。
ただし、歩いたり、負担の多い仕事は3日~1週間ほどで痛みを見ながら開始してください。
食事
食事の制限は特にありません。
飲酒
アルコールは血行を促進し、腫れや痛みを強くする可能性があるため、術後1週間は控えることをお勧めします。
運転
当日は麻酔の影響が残るため、ご自身での運転は絶対に避けてください。
翌日以降、痛みがなく、体調が万全であれば問題ありません。
運動・性生活
ウォーキングなどの軽い運動は術後1週間を過ぎた頃から、体調を見ながら少しずつ再開できます。
しかし、激しい運動や性生活は術後1~2週間から痛みを見ながら再開してください。
定期的な受診
術後1~2週間で経過確認を行います。
なお、精液検査の結果が改善するまでに手術から数ヶ月かかることもありますので、焦らずに定期的な受診をお願いします。
こんな症状が出たら
すぐにご連絡ください
回復過程で2週間ほどで創部や陰のう、包皮に硬く腫れ上がったり、内出血が見られるのは一般的ですが、ごくまれに感染症や合併症が起きることがあります。
以下のような症状が現れた場合は、すぐにご連絡ください。
- 38℃以上の高熱が続く
- 痛み止めを飲んでも我慢できないほどの強い痛み
- 傷口から出血が止まらない、または膿が出ている






